専門研究所レポートa.米国インキュベータ研究報告書|未来教育設計

専門研究所レポートa.米国インキュベータ研究報告書

専門研究所レポートa.米国インキュベータ研究報告書

米国インキュベータ研究報告書

「良きビジネス・インキュベータ構築を望むのであれば、まずインキュベーション・マネージャー確保から!」

はじめに

2000年に大阪市の創業準備オフィスというプレインキュベーション運営に関わって以来、日本の起業支援により適合するビジネス・インキュベーション像をその運営人材像とともに模索してきた。「インキュベーション」という言葉は、企業支援をする側の業界では認知されていても世間一般ではまだまだなじみが薄く、起業家の一部の人にしか有用性が認識されていない。しかしながらこの4年間で着実にインキュベーションに関与する「人」が増えている。「人」というのは、ビジネス・インキュベーションを学ぼうとする人、その運営に携わる人、という意味である。ビジネス・インキュベーションという手法が日本の起業支援手法の一つとして本当に確立されるか否か、はプログラムそのものもさることながら、「人」に帰結する。インキュベータ先進国と言われる地ではどのような「人」がそれを運営しているのかを現場で直接見聞きしたいとの思いから、このたびのJETROインキュベータ・マネージャー米国研修プログラムに参加させて頂いた。結論から述べると、運営する「人」のポジションと資質の重要性を再認識した。
ビジネス・インキュベータが正しく機能するために、構築の際にどのようなことに留意すべきだろうか。多くのポイントがあるが、特に大切と思われる点を、「人」に焦点を当てつつ、視察先インキュベータ事例も加味しながら3つにまとめてみたい。

1.コンセプトが明確であり、事業領域がフォーカスされていること。

インターナショナル・ビジネス・インキュベータ(以下IBI)は、「米国市場に初めて進出する海外企業の支援」というコンセプトを持っており、それ自体がユニークでセールスポイントとなっているビジネス・インキュベータである。マネジメント・ディレクターのイングリット・ローゼン氏が説明するIBIのミッション、運営方針は明確であり、参考に出来る点が多々ある。ちなみに「マネジメント・ディレクターはインキュベーション・マネージャー(以下IM)を指していますか?」の問いにYESであったことから、彼女の職務をIMの職務範囲として話をすすめる。

ここでは施設が出来上がった後にインキュベーション・マネージャーが配置されるのではなく、インキュベーション事業開発の段階から関わり、その事業設計をし、事業運営をする形態となっている。インキュベーションのミッションについても運営後、定期的にトップダウンでIMが見直し決めるそうだ。箱物と誤解されるインキュベータではなく、魂の入った事業である。
ではどのような開設手順になっているかであるが、次のとおりである。

1.主唱者がビジョン、ミッション、ゴールを唱える。
2.地域の利害関係者で集まってミッション、目標をまとめる
3.デベロッパー(マネジメント・ディレクター=IM)を雇う
4.専門家や産業リーダーがIMと一緒になって入居者のためのインキュベーション・プログラムを作る
5.所有資産(構築に使える予算)はいくらかを確認する
6.ビル(物件)を探し出したら、最終的に予算が決まる
7.スタッフやサポート人材(専門家)を揃える
 
ここまででサポートサービスとファシリティが完了する。次に、
8.コミュニティやサポーター作り
9.クライアントを募る
10.公式イベントスケジュールを作る
以上の流れとなる。
残念ながら国内のインキュベータでは、段階3ではなく7あたりでIMが採用されるケースが多い。また段階8や9のような事前のコミュニティづくりや告知活動がおろそかなパターンをよく見かける。スタート前段階でコンセプトが明確であること、事業領域がフォーカスされていること、その構築にIMが中心人物として関わっていること、まずここから始めることが最も重要である。

2.支援する起業家をしっかり選ぶこと。

起業家支援を目的とするビジネス・インキュベーション(以下BI)ではその対象者選びがその後を分けると言っても過言ではない。また起業家とのファーストコンタクトの場に支援者となるIMがいるべきである。審査委員会でビジネスプランが合格し、入居が決まった後、起業家とIMが引き合わされる、これでは双方ともに関係性を作るのに躊躇する。「なぜ、あなたなの?」というわけである。米国事例の場合、入居者を決める作業がかなり綿密に時間をかけてなされている。一例をあげるとこのような入居者決定フローである。

1.入居希望者による申し込み(WEBサイト上の企業アセスメント表記入)
2.IMによる面接/起業家からのプレゼンテーションと質疑応答
3.役員会へ案件提出
役員に与えられる時間は2週間。IMがミッションにあった企業を選んでいるか、役員が何が出来るかを考え、入居可否を決める
4.入居前面談
「あなたの場合、ここをこうしなければならない。」とIMから起業家に伝え、それを理解して聞く耳を持っているか確認。
5.入居。

一般的にここまでで短くて1ヶ月、長くて3ヶ月かかる。が、入居前から起業家支援は始まっており、この過程があるからBIで何をやるのかが互いにとってより明確になるし、起業家と支援者の関係性の第一歩が築かれる。

入居したもののそのオフィスを倉庫代わりに使ってめったに顔を合わせることがない起業家がいてどうしたものかと思うという実話もあるが、入居前からの起業家支援や接触は、そのBIのコンセプトや方針に合致しない起業家を誤って入居させてしまうというミスマッチ防止にも役立つだろう。

もちろん国内でもかなり手前から起業家支援を実施している事例はある。例えば、ビジネスシーズを持っている起業家予備軍を1クラス6~7名に分けて、これに起業支援の専門家1名が担任につき、(1)起業支援セミナーによりビジネスプラン練り上げを支援(1ヶ月)し、(2)開業準備とテストマーケティング期間(2ヶ月)にアドバイスを続け、(3)最終ビジネスプランに対してさらにブラッシュアップ、(4)ビジネスプランコンテストでプレゼンテーション、(5)優秀なプランについては優先して新設インキュベータへの入居許可する、支援事業がおおたアントレプレナースクールとして大田区産業振興協会で実施された。この支援スタイルは、適切な対象者選びを行うこととは別にもうひとつの意味を持っている。日本は起業家が次々と自ら生まれる現状ではない。起業家予備軍から掘り起こす必要性を抱えている。つまりBI事業やIM活動に起業家育成という役割も含むことが米国インキュベーション事業との大きな差異である。

人に促されて取り組むのは、本来の「起業」ではないのではないか?と思うし、起業家育成から支援する長いスパンで事業(ビジネス)として採算が成り立つのかという課題もクリアしなければならない。ただ現状は起業家が生まれにくい風土であることが事実であり、そのきっかけ作りから求められている。私はBI事業を、成熟社会における市場需要創造のマーケティング戦略と重ねてみるようにしている。つまり日本では既に起業家市場があるのではなく、その需要を創るところから始める。そのためには当然ながらBI事業も構築時から「市場(BI利用)需要=利用人口×利用能力×利用意欲」の観点で創造しなければ成立しない。

3.IMや運営スタッフにふさわしい資質をもった人材配置

BI事業は奥が深い。それに関与するIMに求められる職能も究極をいえば際限がなくスーパーマンになってしまう。が、枝葉の専門知識・技術よりも幹の部分にあたるものとして、IBIのイングリット氏は、IMに求められるスキルを3つ述べていた。(1)ビジネススキル、(2)アントレプレナーシップ、(3)ローロデックス(人脈のたとえ)で、人好きで、人のつながりをBIに引っ張りこめる、地域で評判が高い人材を登用すべきだと。同感である。イングリット氏本人も魅力的な人物であったし、創設者のバーバラ・ハーレイ氏も、サンノゼ市、サンノゼ州立大学、AT&T、CITYバンク、パシフィックガス&エレクトロニクス、バンクオブアメリカ、ソフトウェア・デベロップメント・フォーラムなど20の団体、大学、企業の参画を促して1996年に本BIを立ち上げたとのことである。

またIBIではIM以外にオフィスマネージャー、クライアントサポート、インターンズ(学生)、ITスタッフという役割を担う人材がいる。この運営スタッフに望む資質として挙げられたのが次のこと。

このように「人」への対応力と自ら判断し取り組む意識を強く持ったチーム編成が望まれていた。

以上、ビジネス・インキュベータが正しく機能するため、構築時に留意するポイントを検討した。表題にもしたが、良きインキュベータ構築には、IMの存在とその活動が大きな意味と責任を持っている。これからも日々精進したい。

末筆ながら、本研修プログラムを企画・運営してくださったJETROの皆様方に心から感謝します。ありがとうございました。

2003年11月 文責:吉住裕子

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